『田園の詩』NO.31 「鹿せんべいと白熊」(1995.8.1)


 大分から関西へはフェリーの便が良いので、私も時折利用して、京都や奈良に出向
き、師匠の工房に挨拶に伺ったり、筆の原料を仕入れたりします。

 夏休みに更に客足を伸ばそうと、フェリー会社は宣伝に必死です。ラジオのCMで、
こんな中年夫婦の会話がありました。
 「お父ちゃん、大阪に着いたら、先ずたこ焼きを食べなきゃ。次に京都に行って、
 上品な京料理を。それから、そうそう、奈良まで足を伸ばして、鹿せんべいも
 食べましょう・・・。」

 せんべいと饅頭は日本国中どこに行ってもある名物です。確かに、奈良は≪鹿せん
べい≫が有名で、至るところで売られています。しかし、数年間、奈良に住んだこと
のある私の知る限りにおいても、それは鹿に食べさせるせんべいで、人間用ではあり
ません。

 CMの作者は、そのことを百も承知の上で、中年夫婦に鹿せんべいを食べさせるこ
とで、面白い宣伝効果を狙ったのでしょう。まさか、本人が勘違いをした訳ではないと
思いますが。

 ところで、これもラジオで聞いたことですが、宮崎のリスナーから「この時期、白熊
が一番美味しいです」というFAXが東京のスタジオに届きました。若い女性DJは、
初めは何のことか分からず、どうして今頃、それも宮崎で≪白熊の料理≫を食べる
のだろうかと驚いた様子でした。

 後で、≪白熊≫がフルーツが入り練乳のたっぷりかかった≪かき氷≫のことだと
知った彼女は、「東京では白熊なんてネーミングのかき氷はない」というのです。


       
     お店に行けば、山もりにしたかき氷の『白熊』があるのですが、写真が間に合いません
      でした。とりあえず、スーパーで売られていた箱入りのアイスキャンデーの≪白くま≫を 
      紹介します。                 (08.7.31写)



 これには、私が驚きました。九州ではごく一般的なかき氷が全国的なものではな
かったのですから。関西はどうだったか、私自身どうしても思い出しません。そこで
女房に聞いたら「宇治金時はあるけど白熊はない」という答えが返ってきました。

 そのネーミング故に勘違いをされる名物が各地にはあるようです。それにしても、
この暑い季節、私も「ビールより白熊の方が美味しい」部類の一人です。
                             (住職・筆工)

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